2008年6月4日水曜日

Stabat Mors 電雑の追悼記事



追悼 STABAT MORS by 吉田恭淑

 今年の七月に、STABAT MORSことChristian Koehler氏が死去していた事を知ったのは、欧州ツアー時にブレーメンを訪問した時の事でした。彼は自殺という手段で自らの人生を絶ちました。まだ32歳という若さでした。僕自身、今回のツアーでChristianと再会する事を楽しみにしていましたし、お互いの中途半端に止まっているコラボレーションの計画を、再会によって具体的に練れればと思っておりました。 彼との出会いはかれこれ十年以上も前になりますが、その当時Christianは絵画の成功で経済的にも恵まれ、自身のレーベルabRECtを立ち上げて一枚一枚の装飾に凝ったハンドメイド・ジャケットの作品を精力的にリリースし始めた時期であったと思います。一見すると気の弱そうな繊細かつ神経質にも見える眼差しを投げかけながら、一つの事を始めると他人の介入をも認めない程の頑固さと目的を貫徹する信念を持ち合わせ、それでいて作業に手間取ってしまうと急に不安げな表情を浮かべ自己嫌悪に陥ってしまうような、そんな脆い部分を持ち合わせた青年であった印象が残っています。時折オドオドした不安げな雰囲気を出しながらも、一日中吸い続けている巻き煙草に点けるマッチがなくなると、所構わず街角にたむろするパンクス達にまで火を借りにってしまうような大胆な面も持ち合わせていました。 しかし、約5年程前から経済的な困窮に急激に追い込まれ、最終的な生活維持の為の選択は博士号を取って自身の地位を確立することであったようでした。思った以上に論文の制作が捗らず、徐々に生活苦に追い込まれて行き、それだけのみならず近隣とのトラブルでアパートを追いやられる目にあったりと、いろいろトラブル続きの日々であった様です(この時にStabat Mors/S.IsabellaのスプリットLPのオリジナル・ジャケットを父親に全部捨てられてしまったとの事。8年前に彼の家に滞在した時に、6割型出来上がったジャケを見せてもらっていたので非常に残念に思えて仕方ありません。またその彼の困窮さに反比例するように、彼の過去作品のプレミアが高騰して行ったのは皮肉としか捉えようがありません)。それから1年に2、3回連絡を取り合うような感じで疎遠になっていきました。というのも彼の手紙やメールはレポート用紙に換算するといつも3、4枚程になる論文にも似た長文で、遅筆、というか怠惰な僕に取っては返信するのに随分と時間がかかってしまうのと、彼が徐々にメールや手紙を送れない環境に追いやられていったという原因も重なりました。そして約1年半前に久しぶりに彼から届いたメールでは、論文がなかなか仕上がらないことや生活苦や孤独感に耐えられず、列車への飛び込み自殺を図ったが失敗して足を怪我したとの旨が、悪びれる事なく淡々と書かれていました。本来、自分に甘えた人間が嫌いな僕は彼に対しての同情よりも腹立たしさが先に立ち、自殺する元気があるなら早急に仕事を探して働く事、婚約者との破局をいつまでも引きずって孤独感に苛まれるのならStabat Morsの活動に専念する事、そしてなによりも甘えた人間が嫌いだ、という旨をかなり辛辣な調子のメールを彼に送りつけてしまいました。それから久しく連絡は途絶えましたが、約一年程前に届いたこれまた長文メールでは、僕の言葉には触れずに、生活が以前にも増して苦しく、もうレコードを買う余裕どころか自分の作品を僕に送る経済的な余裕もないということや、田野さんとの再会時に泥酔してMSBR演奏時にステージ上で眠り込んでしまった失態を非常に後悔している旨等が長々と書かれていたので、正直少しうんざりして読むのを途中で止めてしまいました。それから僕は彼に返信する事なく彼のメールを放置しておりました。そしてブレーメンでのライブが確定した三ヶ月前に短文で、また会おう!というメールを送ったのみでありました。 今更になって彼のメールを読み返してみると、Stabat Mors他メンバーとの不仲による葛藤、金銭的な余裕もなくただ黙々と部屋に籠って論文を書き続ける孤独な日々、親友だと思っていた某レーベルに音源を持って行かれたまま逃げられた悔しさ、そして生まれて初めて連れて行ってもらったカラオケ屋がもの凄く面白かったとの日常生活が淡々と綴られています。というかこのメール長過ぎて今回も全部読むのは断念してしまいました。まあ僕には時間があるので、ふと、彼の事を思い出した時に、一生かけてだらだらと読んでいければいいのではと思います。かといって、別に感傷的になっているわけでないので悪しからず。ただ、皆さんも友達は大切にしてあげてください。本当に危険信号を発している人間がいるということを、恥ずかしながら僕はこの歳にして知りました。 こうして思えばStabat Mors / MSBRのコラボレーションLPは完全に幻に終わってしまうのでしょうかね。マスターも完全に出来上がっているのに。でもStabat Mors作品はたとえ一筆書きであれChristianの生ドローイングがあってのもの。いずれにせよ両アーティストがもうこの世にいないという何ともいえない皮肉な結末になってしまいましたが、音源だけは確実にこの世に存在していることだけは記憶にとどめておきたいです。  ちなみに彼は博士号論文は完成させたとのことです。 長々と書いてしまいましたが、欧州ツアー時にフィンランド、スウェーデン、ドイツ、デンマークの面白いノイズシーンを見てきましたので、不定期ながらこのメルマガの場をお借りして報告して行きたいと思います。たぶん形式はMONTAGE 高城君との対話形式になると思います。慎んでChristianのご冥福を祈ります。

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