2024年2月21日水曜日

音楽 : NORD

 NORD



 

80年代地下音楽を象徴する自主レーベル「ピナコテカレコード」は1980〜83年の間に8枚のLP、2枚のEP、8本のカセットをリリースした。いずれも前例のない特異な地下音楽のドキュメントだが、今思えば図らずとも最も時代とリンクしていたのが及川洋と片山智の二人組NORD(ノール)だった。フランスの作家セリーヌの代表作『NORD(北)』からユニット名を取り、“T・G(スロッビング・グリッスル)の行き方に全面的な支持と賛同の挨拶をおくる”(AMALGAM#7 1981.7発行)という彼らは、1980年に結成され同年2月3日にマイナーでデビューし、白石民夫やNOISE(工藤冬里+大村礼子)、絶対零度など地下音楽のグルと共に活動する。82年7月吉祥寺ぎゃていでオリジナルNORDとしてのラストライヴを行い分裂。

●NORD/NORD (1981.7/Pinakotheca ‎– Nord #1)

1980年9月21日吉祥寺マイナーで一発録りでレコーディング、10月にマイナー店主・佐藤隆史宅にてミックスダウンされたオリジナルNORD唯一のアルバム。スロッビング・グリッスルやキャバレー・ヴォルテール、DOMEなどのインダストリアルミュージックに影響されたサウンドは、『愛欲人民十時劇場』やNOISE『天皇』、灰野敬二『わたしだけ?』、ガセネタ、タコなど吉祥寺マイナー出身の地下音楽の中では異質な存在に思える。マイナーの住人の多くはサイケデリックロックやフリージャズ、現代音楽にルーツを持ち、過度の情念(怨念)や強固な精神性を打ち出した表現が特徴的だといえる。ここで聴けるNORDの音響も大音量の騒音芸術であることは確かだが、通底するのは激情の発露ではなく 、真逆の覚醒したクールネスなのである。その感覚は、「COLD WAVE」と呼ばれたジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダー、ディス・ヒートやデヴィッド・カニンガム(フライング・リザーズ)等のニューウェイヴ世代と共通する。レコードのB面を占める「Utopie」は壮大な叙事詩を思わせる起伏豊かな騒音組曲だが、冷徹にコントロールされた禁欲主義は「NORD<北>」の名前に相応しい氷の世代(ICE AGE)のデカダンスを体現している。この時代に他のミュージシャンとの交流が殆ど見られないことも、地下音楽の坩堝に於けるNORDの"冷たい孤立感"を表しているのではないだろうか。

リリースから35年が過ぎて、本アルバムがArt Into Lifeから初めてCDとして再リリースされた。未発表のスタジオレコーディングとライヴ音源収録CDとの2枚組。長年封印されていた作品がどのような経緯で発表されることになったのかは分からないが、地下音楽の宝石が陽の目を見ることは大いに歓迎したい。
⇒Art Into Lifeサイト

Profile
NORD(ノール)
及川洋
片山智(1954年8月22日生まれ)

1980年NORDを結成。吉祥寺「マイナー」でライブ活動を行う。1981年 ファーストアルバム『NORD』をピナコテカレコードより発売。「ACB」・「LOFT」・青山「発狂の夜」などでライブを行なう。1982年7月オリジナルNORDラストライブを吉祥寺ぎゃていで行ない分裂。
及川はソロでNORDを名乗りL.S.D.Recordsから84,5年に2枚のLPと1本のカセットをリリースするが、90年代以降の活動は不明。 片山は83年に伊藤真(現・まく)とのデュオでNORDとしてぎゃていを中心に活動。MERZBOWやNULLとコラボもしている。2003年に伊藤と別れ長谷川洋(ASTRO)をメ ンバーに迎え新生NORDとなり、2015年に内田静男を加え現在も活動中。
片山智NORD公式サイト

(全文転載)

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