1935年から1941年にかけて製作し、自身の作品のレプリカを収めた本作は、近代美術史上最も重要かつ、最も謎めいた作品のひとつと言える。戦争の到来を予期し、さらに長年にわたる根無草の暮らしから、作者は自分の「全作品」をいつでも簡単に持ち運べる形式にして再製作した。美術活動の終わりを宣言し、新作を作るのではなく既存の作品をひとつの箱に収めるというアイディアに惹かれたと想像される。 本エディションは、「箱の中の美術館」を誰でも手に入れることができるように、2003年マルセル・デュシャン賞を受賞したフランス人アーティスト、マチュー・メルシエ(Matthieu Mercier)の案を基に製作され、マルセル・デュシャンの作品管理団体によってデザインや品質の確認と認定がなされている。「持ち運び可能な全作品カタログ」を複製化する行為は、作家の製作姿勢とも合致するものである。作者は箱の原案を自ら用意し、工房や専門家に80ものミニチュアの製作を依頼した。約70作品収録。全て同じスケールで縮小されている。過去に販売用に作られたものをもとに2016年に復刻、2020年に復刻版の再販として制作された。