2018年9月4日火曜日

書籍 : 藍峯舎『ポー奇譚集』


藍峯舎第八弾!『ポー奇譚集』
渡邊溫・渡邊啓助譯 坂東壯一挿畫
普及本200部(2018年12月刊行予定)
特装本30部 オリジナル銅版画7葉入
(2019年新春刊行予定)

 昭和4年(1929)、改造社の世界大衆文学全集第30巻として刊行された「ポー、ホフマン集」の翻訳者には江戸川亂步の名が掲げられていましたが、亂步自身が後に自伝で明らかにした通り収録作のすべてが代訳でした。そして、巻の過半を占める呼び物であるポー名作集の翻訳を委嘱されたのが、当時26歳だった渡邊溫。「ポーの心酔者」だった溫は、前年まで横溝正史編集長の下で、雑誌「新青年」の編集助手をしており、その横溝の仲介で、溫はいきなりこの大役を担うことになったわけですが、さすがにひとりでは荷が重かったのか、一歳違いの兄で、まだ探偵作家としてデビュー前の啓助に助力を求めました。
 こうして渡邊兄弟が心血を注いで完成させたポーの翻訳は、当時のレベルをはるかに超えた見事な出来栄えで「名訳」と称賛され、翻訳名義人である亂步をも脱帽させました。後年、亂步は溫の翻訳について、「ポーの一行一行を味読し、理解している点、私などの遠く及ばぬところであった。(中略)当時、二三の人から名訳の評を耳にしたが、その讃辞は悉く渡邊君に与えられるべきものであった」と、自伝に書き記しています。
 しかし、この翻訳の刊行からわずか1年足らずで、溫の運命は暗転します。「新青年」編集部に復職し、谷崎潤一郎への原稿依頼のため出張した関西で、乗っていた自動車が踏切で貨物列車と衝突し27歳の若さで急死。編集の傍ら「可哀相な姉」や「兵隊の死」など短編の名品を発表し、作家として確かな地位を築きつつあった溫の前途は突然、断ち切られ、その多彩な才能があらためて衆目を集め再評価されるのは、40年後の昭和45年(1970)、薔薇十字社による作品集「アンドロギュノスの裔」の刊行まで待たねばなりませんでした。その後、近年は文庫版の全集が刊行されるなど、渡邊溫の遅ればせながらの復権はなされましたが、ただ、その短い生涯における決定的な仕事のひとつだったポーの翻訳については、亂步名義で発表された経緯によるものか、全集にも収録されず、ともすれば見過ごされてきた感は否めません。
 今回の藍峯舎版「ポー奇譚集」は、溫が遺した大いなる遺産であるポーの翻訳にスポットを当て、改造社の世界大衆文学全集に収録された作品集から6篇を精選し、訳者として渡邊溫及びその協力者だった兄啓助の名義で刊行いたします。文字遣いまで気を配った翻訳の妙を味読いただけるよう、発表時のままの旧字旧かな表記とし、さらに各篇には銅版画家坂東壯一による描き下ろしの挿画が添えられた豪華愛蔵版です。どうぞご期待ください。

<収録作品>
黄金蟲
メエルストロウム
陥穽と振子
赤き死の假面
アッシャア館の崩壊
ウィリアム・ウィルスン
解説 昭和四年のエドガー・ポー 中 相作
A5判変形 本文二色刷216頁 別丁二色刷挿画(銅版画)7点
限定200部(記番入り)
定価18,000円(税込) 11月20日(火)予約開始
造本仕様
背継面取表紙・天金箔、丸背、二重貼函、保護筒函
保護筒函上題簽用紙/ 波光(白)一色刷
二重貼函用紙/ 内・Magカラー(ボルドー)
       外・五感紙(荒目・黒)
背継表紙/ 背・黒色染牛革
     表裏布・ワールドクロス・タンタンピース650-BK
     文字・本金箔押
見返用紙/ Magカラー(ボルドー)
本扉用紙/ ニューこもん(白)二色刷
挿画用紙/ ヴァンヌーボF-FS(ナチュラル)二色刷
本文紙/ アラベール(ナチュラル)二色刷
奥付用紙/ レイド紙(ナチュラル)

●特装版30部(オリジナル銅版画7葉綴込) 2019年新春刊行予定

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